政府公認ドライビングスクールインストラクター由美まで
Tel.: 604-760-4749
インストラクター由美(インタビュー)
大切なのは素直にやってみること
ユミ・サンダーソンさんが教習生によく言うのは「ゆっくりじゃだめ、ゆったりと」。ゆっくりだと流れを止めてしまい、焦ってしまうと視野が狭くなる。
スムーズに流れに乗って、大らかな気持ちで運転することが大切だという。運転を早くマスターするには「『このおばさん何言ってるの?』と思っても、とにかく指示通りに素直にやってみること。
運転は技術なので、教えられた通りに根気よく行えば、その積み重ねが実を結びます」とユミさんは陽気にはつらつと語る。
ともあれ、いきなり一般道で訓練するカナダの教習では、ドライバーも教官も命がけなのでは。「次に生徒がどんな行動をとるのかはだいたい予想がつきますね。でも今までに1度だけ、何でもないところでいきなり急ブレーキを踏まれたことがありました。
そのときはさすがに驚きました」。その瞬間後ろを見て、車がいなくてほっと胸をなでおろしたとか。「たとえ生徒の気持ちがアップダウンしても、自分は平常心で今日も無事故で」と祈ることがユミさんの日課だ。「絶対できるから大丈夫。ほらできたじゃない」16年間ユミさんは車の免許取得の仕事に携わってきた。
教習ではスイスイと運転を覚える人がいる一方、苦手意識が運転に出てしまう人もいる。ある女性の教習生は、過去に同乗した車が事故に遭った経験をもっていた。車を運転する必要に迫られレッスンを始めたものの、事故のトラウマは抱えたままだった。
だが1つ1つじっくりと指導するユミさんの力強い励ましで、彼女は徐々にネガティブな気持ちを克服し、自信をつけていった。試験当日、試験場に同伴したユミさんが待っていると、彼女は合格の知らせを泣きながら伝えてくれた。
「車の免許など簡単なことと思っている人も多いですが、運転に対して心理的な壁を持つ人もいます。もしそうした気持ちを理解していない人が指導にあたれば、その人はすっと心を閉ざしてできることもできなくなりますよね。だからこそ自分がやっている意味があるかなと」
教官として、母として
周りの勧めから運転免許の試験官の職に就いたこともある。
「試験官の募集があるから試験を受けてみないかと声をかけられたときは、『私なんて受かるはずないわ』と言ったんです。
そうしたら『You never know』と言われて…。あれ?それって私がいつも教習生に言っているセリフと思って」試験官の仕事は教官よりも負担が少なく、それまで仕事一辺倒だったユミさんに自分や周囲を見る余裕が出てきた。
歳を越えた自分の子供たちの心理的な幼さに気づくと同時に、家事に協力的な夫に甘えて、家庭をなおざりにしていた自分に気がついた。
『お金を稼いで裕福な暮らしをさせることが子供の幸せにつながる』と自分に言い聞かせてやってきた部分があったけれど、結果として子供の心にエンプティなところができてしまっていたんです。
自分は人間を育てているんだから、仕事をしながらも子供を見る強い気持ちが必要だったと痛感しました。そして遅まきながら、今からでもあの子達の寂しさを埋めていかなくてはと思いました」
それからは試験官を辞して、自分でスケジュールの組みやすい教官業に戻った。今度は単独でなく、中国系カナディアン、アルフィー氏を中心に共同でオフィスを構える形で。
ユミさんは仕事から帰って夕食を作り、子供の話に耳を傾ける生活を始めた。
子育ても教習も「相手の立場になって誠実に指導していこう」と再確認してスタートした現在の生活を語るユミさん。
元気に車を乗り回しているという卒業生の報告を栄養剤に、自分と生徒の目指すゴールに向かって走り続けている。
(取材 平野香利)
ユミ・サンダーソン
愛知県出身。OL生活に区切りをつけ語学留学で来たバンクーバーで、ICBC自動車免許試験の試験官であるご主人と出会い結婚。第1子出産後、ご主人の勧めから1992年に試験に挑戦し合格。自動車教習インストラクター業を開始する。2年間はICBCの試験官も経験。